(2021年4月18日の記事です)
LUUPの概要
株式会社Luupが提供する短距離移動アプリ『LUUP』は、電動マイクロモビリティのシェアリングサービスです。
街じゅうに高密度で設置されているポートから、小型電動アシスト自転車を借りることができます。
LUUPは、2021年4月2日(金)より大阪のキタ(梅田)・ミナミ(難波、天王寺)の2エリアにて、サービスの提供を開始します。
小型電動アシスト自転車から提供を開始し、2021年の春から夏にかけて電動キックボードの導入も予定しています。
代表取締役社長 岡井 大輝
(画像出典:https://luup.sc/)
岡井 大輝
東京大学農学部を卒業し、戦略系コンサルティングファームにて上場企業のPMI、プライベートエクイティファンドのビジネスデューディリジェンスを主に担当。
その後、株式会社Luupを創業し、代表取締役社長兼CEOを務める。
2019年5月には国内の主要電動キックボード事業者を中心に、新たなマイクロモビリティ技術の社会実装促進を目的とする「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し、会長に就任。
画像出典:2020年1月12日(日)放送「 がっちりマンデー」(日本交通・川鍋会長が気になるスゴい会社「Luup」)
Fast Growによる経営者インタビュー
仕事の半分以上が採用と組織のことだと仰っていたと思いますが、採用や組織づくりにおいて大事にしていることを教えてください。
徹底して「ミッションファースト」で採用しています。
「街中を駅前化する」というミッションに全力で向かえるかどうかを最も重要視しています。
他社のシェアリングサービスと比較して、LUUPの競合優位性とはなんでしょうか?
表面的な話だと「提供している機体が小さい点」となりますが、本質的には「サービスの思想」が競争優位性になります。
既存プレイヤーはシェアサイクル単体で短期的に利益をあげる方針をとっていますが、Luupの場合違います。
街中に電動モビリティを張り巡らし、街の不動産価値を上げることができるシェアサイクルを目指しているので、その思想が、結果的に「高密度に設置できる小さな機体」に繋がっています。
現在渋谷区を中心にLUUPのポートの設置を進めていると思うのですが、ポートの設置場所についての戦略をお聞きしたいです。
まずは、置ける限り置くという方針で進めています。
使っていただいて、その行動データを分析することで、より最適化できると考えています。
また直近だといろいろな事業者様と提携させていただいていますが、きちんと理解していただければ、ほとんどの会社はLuupと組んでくださると考えています。
なぜなら、例えば不動産会社であれば、LUUPと提携することで相対的に不動産の価値があがるためです。
既存のシェアサイクルは大きいビル下にポートを多く設置しており、短期的に利益を得る構造になっていますが、Luupは10年後に街全体にポートが高密度に存在している未来を目指し、長期的にリターンを得ることを考えています。
そのため、今後Luupがきちんと成長を続けた結果、提携先の利益になることを適切に伝え続けていくことが成長のためには重要です。
尊敬している事業家、起業家はいますか?
ミッションや使命先行型で起業しているという意味で、イーロン・マスクです。
決して自分の帝国を築きたいわけではなく、ミッションドリブンで複数の会社をプロジェクトとして立ち上げていますよね。
あくまで起業は手段でしかないという姿勢が感じられる点で、自分と似たタイプの起業家としてベンチマークしています。
ご自身のバイブルとなっているような、何度も読み返す書籍はありますか?
「サピエンス全史」です。
伝記やビジネス書はよく読んでいるのですが、その中でも「この本の内容を忘れてしまったらまずい」という意味で選ばせていただきました。
事業案/タネを思いついた時に、一旦検証してみようと思うアイデアの条件と検証してこれはいけるんじゃないかと実装を考える条件を具体的に伺いたいです(例えば現在のメインで取り組まれている事業の場合)
“スタートアップとしてやるなら”という前提で、2つ条件があります。
1つ目は「市場の大きさ」です。エクイティで調達して急拡大を目指すようなスタートアップをやるのであれば、当然市場が大きくないといけません。
これを考える上で重要なのは、まずどんなミッションを持った会社を作りたいのか、そしてそれに合ったファイナンスの戦略は何か、最後にその戦略に合った事業モデルは何かという順で考えることです。
その結果、エクイティで調達するのであればスタートアップとしてやればいいし、別の方法で中小企業としてやるという選択もあり得ると思います。
2つ目は「あなたがやるべき理由」が明確であることです。
Product-Founder Fitと表現したりもしますが、自分を客観視した上で最適な事業を選ぶことが大事です。
なぜなら、事業として勝負の軸を見極めてフォーカスしないと勝つことができないという点に加えて、その事業のコア部分に社長が強みを持っていないと優秀な社員がついてきてくれないからです。
自分に合った事業モデルか?という点は意外に軽視されがちですが、自分の周りで結果を出している起業家を見ると、これをわかっている人が多いなと感じます。
プロダクトづくりにおいて、特に大事にしていることを教えてください。
「ユーザーが求めているものか」と「社会全体の中で自分たちが作るべきものか」の2点を大事にしています。
後者は言い換えると、「本当の意味での客観視ができているか」ということです。
実は世の中のほとんどの事業・サービスは、リソースもアセットもある大企業が作った方がいいはず。
その中で、なぜ僕らのような小さいスタートアップがやるべきなのか?という問いは重要だと思っています。
Luupを例にすると、電動モビリティは究極的にはトヨタさんのような大手企業がやる方がいいんです。
機体の製造に関しては、ものすごく積み上げられたノウハウもありますし、小さい組織で作るより全然良いものができるはずで。
それでも僕らが取り組むのは、既存の産業構造と今後訪れるモビリティ業界の未来に「溝」があるから。
具体的には、これまでの売り切りモデルの終焉、高度なソフトウェア開発の必要性、そして各関係省庁および地元との共生という地味なオペレーションの3つです。これらを既存の大手メーカーさんがスピード感を持って取り組むのは現実的ではないという観点で、Luupというのは存在しています。
スタートアップが取り組むべきことというのは、実は本当に奇跡的に小さいポイントしかないと思っており、その本質を見誤ってはいけません。
その意味で、僕らはデータベースやアプリケーションレイヤーとオペレーションの2つは自分たちで作るべきだと思っていますが、機体の製造は最終的には国内メーカーが行った方が良いと思っています。
副社長・執行役員・CBO 佐々木 裕馬
佐々木 裕馬
東京大学フランス文学部卒業。新卒でJXTGエネルギーに入社し、東南アジアの石油開発事業に従事。
退職後フランスでのMBA取得を経て、西アフリカのスタートアップPEGに無給インターンで入社。3ヶ月で経営陣に抜擢され、ガーナで250人の営業部隊を統括。
2018年に帰国後、UberJapanで営業本部長としてタクシー会社との業務提携を進める。
2020年にLuupにジョイン。
Fast Growによる経営者インタビュー
東大に入ったんですけど、2日間だけ通ってすぐ休学を決め、アメリカに行きました。音楽がとにかく好きで、プロになるために本場に行きたいという気持ちが止められなくて。で、ロサンゼルスに行ってみると、自分なんか全然敵わないと感じるような凄い人たちがたくさんいたんです。一応3年間やりましたが、これは無理だと諦めて、帰国して復学しました。
LAでは音楽関係だけでなく、いろいろな知り合いができて、いろいろな世界を見ることができました。感じたのは「とにかくカオスだな」ということ。
見える世界の複雑さが、日本とは比べものにならない。それが面白かった。そこから、もっとカオスなところってどこだろう?と考えてみたんです。
それで、本当に単純に思い浮かんだだけなんですけど「アフリカだろう」と(笑)。
だから3年次からはフランス文学科に進みました。興味関心を強く持ち続けて、就活でもその「アフリカ」をキーワードとして考えていました。
もう一つ、なんとなく思い浮かべていたキーワードが「インフラ」だったので、商社か石油開発企業を選択肢として考え、結果としてENEOSに入社することになりました。
石油開発の事業部門に配属されて、でもアフリカには行けなかったんです。
東南アジアのベトナムやマレーシア、タイなどでひたすら原油を掘っていました。
各国の政府系企業と合弁で、掘っては当たったり当たらなかったり、そんな仕事でした。想像していたのとは全く違う環境での仕事でしたが、やりがいはすごくありましたよ。
自分で予算を組んで、現地の会社の社長相手に交渉に臨む日々です。1年目からExcelに記入する金額の単位が1ミリオンダラーですからね。
ダイナミズムがあって面白かった。
ある時思っちゃったんですよ。「いやアフリカ行けないじゃん」って(笑)。希望は伝えていたのですが、なかなか通りませんでした。
私もこの気持ちは強かったので、2年半ほど経った頃に「アフリカに行けないなら辞めます」と伝えて、本当に辞めてしまいました。
私はフランス文学科だったので、ビジネスを一切学んでいない。このことが気になっていたんです。「ビジネスの基礎をきちんと理解したほうが、良い仕事ができるはずだ」と思って、MBAを考え始めました。
まあ、よくある話かもしれませんが。
やっぱりアフリカです。
いずれアフリカに行く、と本気で考えるなら、アフリカと関係性の強い場所に身を置くべきだと思ったんです。
将来の仕事のためのネットワークだって、きっと構築できる。
日本ではあまり知られていないかもしれませんが、フランスではMBAを1年で取得することができます。
2年かかるものだと思われていることが多いですが、それはアメリカや日本の大学院の多くがそのようにしているだけなんです。全世界でMBA取得には2年を要するというわけではありません。このことは私にとっては非常に重要でした。
ビジネスは学びたいけれど、ビジネス現場から離れる期間は短い方がいいと考えていました。やっぱり現場で学ぶ方が意味があるし、そもそも私は現場で学ぶ方が好きです。
なので1年でしっかり取り切ろうと思って準備をし、エセック・ビジネススクールという、フランスで上から2番目の経営大学院に通い始めました。
中国やらインドやらアフリカやらから集まったメンバーと、ビジネス施策を考えるディスカッションを進め、結論をまとめ上げるという課題をよく覚えています。
正直、自分よりずっと賢い人たちだなと感じることもありました。しかも自信があって発言の回数も多い。だから、自分がどうふるまうべきか、とても迷い、悩みました。委縮してしまったんです。でも何とかしないと、来た意味がない、と自分を奮い立たせ、必死に対応しました。
まずはしっかり、聞く側となって議論を聞く。そして言うべき時が来たと感じたら、言語の拙さなど気にせずとにかく大声で伝えようとする。
このシンプルな考え方が功を奏しました。普段から使っているものとは違う言葉や文化を理解しながら考えや実験結果をまとめ続けるというのは、想像以上にハードでしたが、結果的にチームを上手くまとめることができました。
PEGは、電力が届いていない農村の人たちに、電力キットを販売する事業をしています。創業者は欧米の方で、私はガーナ国籍以外で1人目の採用でした。採用といっても、実は「無給インターン」という立ち位置。
あ、こんな立ち位置は日本ではまずないでしょうから、日本のスタートアップとの大きな違いとも言えますかね。
フランスでも、MBAを取ったら「高給取りになる」という見方をされます。だからまわりにいた友人たちからは「アホか」って言われ続けましたね(笑)。
もちろんずっと無給というわけにはいきませんよ(笑)。先を見据えて、先方の経営陣と交渉をしたんです。「6カ月間は無給でいい。その代わり、成果をしっかり出したら、7カ月目から経営陣に入れてくれ」と。
成果を出す自信はあったので、まずは入ることが大事だと思ったんです。それに向こうにしてみれば、外国人なんて雇ったことないですから、使えるかどうか分からないという不安だってあるはず。
でも無給でMBA取得者を採用できるなら儲けもの。
想像しにくいとは思いますが、利害は一致したわけです。ちなみにこの企業、経営陣にはコロンビア大、イェール大、ロンドンビジネススクールなど超有名大学でMBAを取得したような人たちが揃っているんです。
なのでMBAを持っているくらいでは、いきなり重要な役職でジョインすることなんて、きっと難しかったでしょうね。
現地出身メンバーで構成されるチームをまとめ上げ、セールスをしっかり回すマネジメントを行ったこと、これが私の出した成果です。最大で250人にものぼる人数を統括していました。このことが、他の経営陣には難しかったようでした。
それもそのはず、私とは経験が違う。フランスでの日々は、やはり大きな力になりました。母語の使えない空間で、多様なバックグラウンドを持つメンバーと対峙し、同じ目的に向かってなんとか前に進む。
この点で、エセックでのグループワークも、PEGでのセールスチーム構築も、やることは似た部分が多かったんです。コロンビア大やイェール大で学んだ先輩たちは、頭の回転がものすごく早く、ロジックを語らせたらもう全く敵いませんでした。
でも、目の前の人と対峙してチームを動かそうとする考え方は、どうしても経験不足に見えました。
超有名大とは異なり、雑多なメンバーが集まるエセックだったからこそ、MBAだけでなく「チームで動く」という強みも鍛えることができたと実感しています。
そうして3カ月で働きを認められ、4カ月目から経営陣の、しかもNo.2の地位まで得ることができました。
MBAと仕事をセットで3年の挑戦にするともともと区切っていて、それが経過したので、妻のいる日本に帰ってきました。
帰国だけが先に決まったのでとりあえずFacebookに「帰ります!」と投稿すると、お仕事のお誘いもいくつか頂くことができ、その中にUber Japanで働く知人からの連絡もあったんです。
なんとなく「テクノロジーで社会貢献できるベンチャーに行きたい」と思っていたので興味が湧き、アフリカからZoomで面接を受けました。
話したのは「日本参入はそんなに簡単じゃない。文化が違うから、とにもかくにも実利より先に信頼関係を築いて進める必要がある。でもそうすれば、その後の浸透は早い。
私にならこれが任せられる」ということ。
とにかくUberの人間が、日本のタクシー業界について分かっていなかった、分かろうとする努力が足りなかった。これは事実です。
営業して、既存のタクシー事業者にUberのシステムを導入してもらうところまではやるものの、それでコミットが終わってしまっていたんです。はっきりいってUberのシステムは、導入さえしてもらえればあとはうまくいく、そんな代物では到底ありませんでした。
だから私は、導入を決めてもらった後、現場のタクシードライバーのもとへ出向き、手取り足取り説明したり、活用するための資料を丁寧に作って渡したりと、とにかくフォローに走り回りました。
このことが功を奏し、タクシー業界内で良い噂が生まれていったみたいなんです。
「佐々木が言うならしょうがないか」と言って導入を検討してくれる相手が増え、Uber上層部も「佐々木がやれば前に進む」と信頼してくれるようになりました。
はっきり言って、Uberと似たミッションがLuupにはあります。
Uberで追っていたミッションが「移動を活性化することで、機会を生み出す」ということ。
私自身、移動が不便な土地に住んだこともありました。
それによって個々人の機会が失われるのは、非常にもったいないことだと心から感じていました。
でもそのミッションに向かうためのスピード感が、Uberではもうだいぶ遅くなってしまっていた。
やはり大企業的な部分も増えてきていたんです。だから辞めました。
Luupでは、岡井の目指す「いかに早く、これからの日本に必要な新しい交通インフラをつくるか」に、自分の力を捧げて「最速に貢献できる」と思いました。
また、Uberと同様に、地域社会に受け入れられるための努力が欠かせない事業でもあります。
この点においても、経験を存分に活かせると感じました。Luupも、Uberに負けず劣らず、壮大なミッションを掲げています。
でも岡井なら、できる、一緒にやりたい、とそう思わせられました。
彼は、ミッションを最速で成し遂げるために、あらゆるリスクを取ってチャレンジできる人間なんです。
会社って、わざわざリスクを取らなくたって生き残っていくことは可能です。
でも事業を進める、しかも私たちのように「インフラをつくる」という場合には、その角度を最大限高くしていかないと、社会に貢献できません。
そのための覚悟を、誰よりも強く持っていると感じました。
最も印象に残っているのが「ミッションが全て」という言葉。
ミッションのために、自身がトップである必要がなくなったのであれば、彼は迷うことなく立ち退きます。
ミッションのために、それまでやってきたことを変える必要があるなら、彼は平気で過去を捨てる決断ができます。
それに、よく言われることでもありますが、「弱みをしっかり認識している」というのも強みですよね。
例えばマネジメントも営業も、私に比べると正直、見劣りする部分があります。これは経験の蓄積が違うので仕方がないことです。ただ、それを自覚して、私にうまく任せてくれる、この調整がしっかりしている。こうした積み重ねが、ミッションに向けての最短距離を歩む行動に繋がっていくと思います。
これからどうなるか分からないから面白い部分はあると思います。
もちろん、間違いなく大きくなっていけるように私たちは努力するのみですが、その道中がものすごく面白いと私は思います。
Luupがやっていくのは「インフラづくり」です。
成果指標が一般化されてきたSaaS型ビジネスモデルを備えているわけではありませんし、すごく使い勝手の良いアプリを拘り尽くしてつくっていけばうまくいくというわけでもありません。
規制にもうまく対応していかなければなりません。
私はとにかく、このフェーズにおけるこういったチャレンジがものすごく好きなんです。これからさらに打ち込んでいけるのが楽しみで仕方ありませんね。
副社長・執行役員・CPO 松本 崇宏
松本 崇宏
京都大学卒業後、大学院はUCLで経済学を学ぶ。
University College Londonで経済学修士を取得し、ペンシルベニア大学の修士課程ではコンピュータサイエンスを学ぶ。
新卒では東京海上日動火災保険で保険商品開発・引受審査業務に従事。
その後、Uberにて新規ビジネス構築・市場効率化・オペレーション構築を行い、DataRobotでのデータサイエンティストを経て2020年7月にLuupにCPO(チーフ・プロダクト・オフィサー)としてジョイン。
サービスオペレーション・プロダクトを管掌。
CTO(共同創業者)岡田 直道
岡田 直道
東京大学工学部卒業後、同大学院在学中より株式会社AppBrew、株式会社リクルートライフスタイル、Sansan株式会社など複数社で主にサーバーサイド・iOSアプリ開発業務を経験。
株式会社Luup創業後はCTOとして、エンジニア組織の構築やLUUPのアプリケーション開発・社内システム整備を管掌。